menu | archive | admin
スポンサーサイト 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
みにくくはないアヒルの子 

「あぁ。
 なんでぼくはこんなにみにくくはないんだろう」

 みにくくはないアヒルの子は兄弟の中で一人だけみににくはなかったためにいつもいじめられていました。
 この言葉遊びがどう転がるか、なんとなくお分かりですね?

「なんてみにくくはないやつだ!」

 兄たちはみな、くすんだ黒い羽毛で、とてもみにくい姿をしていましたが、それよりもなお、心がみにくかったのです。
 みにくくはないアヒルの子に泥を浴びせかけては、

「へっ、いくらおれたちみたいにみにくくなくはなくなっても、水で洗えばすぐみにくくはなくなっちまうんだ」
「けっ、よるなよるな、おれたちまでみにくくはなくなっちまうぜ」
「まーぁ?おれ達がおまえみたいにみにくくはなくなることなんてねえけどなぁ」

という、よく分からない方面にねじれたいじめ方で、みにくくはないアヒルの子をたびたび困惑させました。
 みにくくはないアヒルの子は、兄らはそのみにくい外貌から心を閉ざしているのだと思い(そして残念なことには、単に彼らの心がみにくかったのです)、自己肯定を促すために、とりあえず誉めようと思いました。
 兄たちを許すことが出来るのは「今に於いて吾しか在らぬ」という使命感がたぎっていたような気がする、と後にみにくくはないアヒルの子は手記を遺しています。
 しかし意気込んでみたものの、みにくくはないアヒルの子は困ってしまいました、どこにも誉めどころが無いのです。ありもしない誉めどころを探すのですから、弟が兄に向ける視線は自然とやかましくなり、苛立ちを深めた兄たちのいじめは一層苛烈さを増していきました。

「兄さんたちの羽ってシックで素敵だなぁ」

 やっと捻り出した誉め言葉が歯に衣着せたの丸出しだったために、怒り果てた兄たちは虚脱を起こし、ついにハンガーストライキへと移行しました。
 ここまできて、これまでみにくい子供らのフォローに必死だった両親は、みにくくはない末っ子のことを気にかけるようになりました。

「なんだってお前は、一人だけそんなみにくくはない姿に生まれたのか。
 そうでなければ全て諦め、受け入れることができたものを」

「僕をみにくくはなく産んだのはあなたたちじゃないか。
 ならばなぜ僕をみにくくはなくはなく産んでくれなかったのだ」

 ひどい話もあったものです。
 書いていてもかわいそうになってきたので、ここらでオチにしましょう。
 心も姿もみにくい兄たちは実はみな、心のみにくい美しい白鳥だったのです。

 あまりのその身のみにくさから、却ってつねに美しいものを意識していた彼らは、美しい白鳥の姿を得るや、彼らの思い秘めた美しい観念そのままに、実に優雅に飛び去って行きました。





「白鳥なんてのは優雅に見えるもんだが、水の下では足をジタバタモガモガ、必死なもんだぜ」

 成鳥してのち、嗅ぎ煙草を吸う釣り人の言葉を聞いてやっと胸の透く思いをしましたが、「水面下の苦労はアヒルも一緒ではないか?」と気づき始めたのはしばらく経ってからということです。


スポンサーサイト

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。